遠 雷





「皇子」



 地面に横たわったまま、首をそらせて声のした方を向いた。
 逆さの視界には水面から頭だけ出した竹中さんがいて、私を見て、それから北の空を見て、言った。


「夕立、くるよ」
「わかるのか」
「わかる」


 最低限の言葉だけを返して、またとぷんと池に潜ってしまう。
 水の中にいる彼の姿は、なぜだか見つけることができない。溶けてしまうのか隠されてしまうのか、あるいは彼自身が水そのものなのか。


 ――どうでもいいな、そんなことは。


 私は弾みをつけて起きあがった。少しだけくらくらして、目の前が暗くなる。


「どうする?」


 水はいつの間にか竹中さんのかたちに戻っていた。
 私は無表情な声で訊き返す。


「どうする、って」



 私も竹中さんと同じものになりたい。


 以前、そう言ったことがある。死、というものをはじめて理解したときのことだ。
 いつか自分という存在は滅してしまう、それなら彼と同じものになれば、無限のときをともに生きられるはず。


 彼は、かなしそうに笑っただけだった。



「戻らないと」
「どこに」



 なあ、今ならわかるよ。
 おまえにも、永遠なんてものはないんだ。



「濡れても知らないぞ」
「いいよ、別に」
「……皇子」
「ここがいいんだ」




 ずっと遠くから夕立がやってくる音が、私にもやっと聞こえた。