この思いが重いのは、きっと相反する感情を内包しているせいだ。





「たけなか、さん」



 どこか呆然と名を呼んだ。
 竹中さんは馬乗りになった僕を、困ったような悲しいような目で見た。



「竹中さん、竹中さん」



 自分の手が彼の首に伸びてゆくのを視覚的に認識する。
 現実味がない。どこかで僕が僕を見ている。離魂病か。白昼夢か。



「竹中さん、死なないで」
「しなないで」
「しんじゃいやだ」



 まきつけた指にぐっと力を込める。白い喉をぎりぎりと絞め上げる。


 いやだどうしてこんなことしなないでだめだはなれろはなれろよこのゆびはどうしてなんで


 言葉はうわごとのようにとめどなく溢れた。



「しなないで、しなないでたけなかさん」
「イナフ」



 竹中さんが僕の左手首をきつく掴んだ。引きはがそうともせず、ただ強く掴んだ。
 脈が止まった、と思った。





「死なないよ。死ねないんだ、私は」





 だからもう苦しまないでくれ、と竹中さんは笑ってくれたはずだった。
 でもぼろぼろと涙をこぼす僕の視界は醜く歪んで、その優しい顔はちっとも見えなかった。




 どこかにいた僕は僕の中に還って、無言で僕を嘲っていた。