正常なんて 吐き気がするね
 正常なんて かなしいことばかりだ





 今日は少しあたたかいですねと妹子が呟いて、私は首を傾げる。


「今日はって、ずっと今日だろ」
「ああ、そうでしたね」


 妹子はくすくすと笑う。なにがおかしいのだろう。  ぼんやりと部屋の中を眺める。ずっと前の今日に摘んできた野の花が、汚らしく朽ちて散らばっている。

「今日でおしまいなんですよね」
「ああ」
「でも今日はずうっと終わらないんですよね」
「うん」
「すきですよ、太子」


 ぞっとするような声で妹子が言うから、私は半分眠りながらキスをした。頭を何度も撫でていると細い髪が指をちぎろうと絡みついてきて、ひどく嫌悪感を覚えた。そう云えばあの花もこんなだった、と意識の隅で思う。





 ああ、私がすきなのはあの花だっけ?それともこの腕の中のやわらかいもの?






(どっちでもいいじゃないか、どうせ正しいのはひとつだけだ)






 うん、そうだ。ひとつだけ。あとは全部嘘。







「あいしてる」







 あとは全部嘘。





臨界点まで(太妹)