「暇だ暇だ暇だ、暇すぎるッ!」



 吠えるように云うと、探偵はばたりと畳の上に倒れた。そう広くもない座敷を、長身がごろごろと転げ回る。

「やめてくれ、埃が立つ」


 例の如く葬式を十軒はしごしたかのような仏頂面で漢籍を読んでいた古書肆は、顔も上げずに云い放つ。
 聞こえたのかどうか、榎木津は膝を座卓にぶつけておおう、と呻いて止まった。手でさすりさすり起き上がる。


「おお痛い。見ろ、おまえがかまってくれないから僕は怪我をしたぞ!」
「何を子供みたいなことを」


 心底呆れた声で呟き、中禅寺はようやく本を閉じた。座卓にべったり頬をつけてにやついている榎木津をちらりと見やる。


「で、僕にどうしろと云うんだ。落語の一席でもぶてばいいのか」
「そんなのはいいよ。眠くなる」


 ああ退屈だ――と妙な体勢のまま大袈裟な声を上げる。


「おい京極、神を暇にすると大変なことになるぞ」
「へえ、どうなるんだ一体」
「聞いて驚くなよ」


 神は不敵に笑うとがばっと身を起こし、厳かに宣言した。





「天変地異が起こる。雨が降るよ」





 満足そうに頷く榎木津に、中禅寺は小馬鹿にしたような視線を向けた。そのまま、硝子窓の外に目を移す。薄らと雲のかかった空は灰白色である。ちいさく苦笑し、再び本を手に取った。



 さて、どうなることやら。





天のみぞ知る(榎京)