「ああ見て曽良くん、雁が渡ってゆくよ」
「本当ですね」
「もう冬なんだねえ」
「ええ」
「あんなに高くを飛んでると、羽音も聞こえないね。風に流されてるだけみたい」
「でも、意思を持って飛んでいるんでしょう」
「どうだかなあ」
「向かう場所があるはずです」
「ほんとうに向かう場所なんて、きっとないんだよ」



 私たちもそうなのかもしれないな。
 横顔が呟く。



「芭蕉さん」
「あー寒! 曽良くんはやく宿探そうよ!」
「……はい」



 どこへ行くのかなんて本当はどうでもよくて、
 でも確かに、僕は自分の意思であなたについていっているんですよ。




 そんなことも言えず、ただ背を追った。
 雁は静かに、風を受けて飛んでいた。





暮れる無音(曽芭)