混ざりあって 絡みあって 溶けあって
 落ちていく 落ちていく





「愛してなんて言わなきゃよかった」




 それはとても暗い夜で。
 今思えば新月だったのだろう、窓の外にはやけに頼りない星明かりばかりがちらついていて。おまけに私は幸福感やら倦怠感やらで意識も飛ばしかけていて、だからそう呟いた太子がどんな顔をしていたのかなんて全然覚えていない。記憶にあるのは、睦言にしては哲学的すぎるそのやりとりだけ。



「後悔、してるのか」



 私はそう返したはずだ。声は多分、かすれていた。



「してないよ。望んだのは私だし」
「なら、どうして」
「だって竹中さんは、全部くれるから」




 何がほしいのかときどきわかんなくなるんだよ。



 たしか、そう言って。




「いらなかったら、そう言ってくれ」



 ああそうだ、私はひどく悲しかったんだ。



「そういうことじゃないよ」
「でも」
「違うんだって」
「私はかまわないから」



 そこでたしか、後ろから抱きしめられて。うつぶせの背にのしかかる太子が重くて。





「愛してよ。私を愛して、竹中さん」





 耳元でそんな台詞。


 言わせてしまったことがひたすらに悲しくて、奥歯を噛みしめた感触だけは少し鮮明に残っている。
 密着した肌の汗ばんだ熱やシンクロする鼓動は、きっと遡って作られたものだ。





「ああ」





 頷いたかどうかも、定かではない。





(太魚)