ざわり、と胸の裡で蠢く。
 正体のわからないソレが、きみは怖いんでしょう。



 枕を噛んで痛みをこらえた。本来繋がるための器官ではないそこをぎちぎちと広げ、若い弟子は熱を突き入れる。内部が切れたらしく、激痛と共に滑りがよくなる。
 行為はひどく性急だ。服も脱がさず、ろくに慣らしもせず、舐めさせて入れるだけ。文字通りかみつくようなキスのせいで、唇からは血がにじんでいる。うつぶせで腰を高くした姿勢はしなやかさを失った身体には相当の負担で、後ろから突かれるたびに背骨が軋んだ。
 顔の見えない弟子は無言で、ただ呼吸だけを荒くして、ひたすら解放を急ぐ。すべては過程にすぎないのだ、とでも云うように。こんなもの単なる手段だ、と顕示するように。


 かわいそうだな、と思う。
 妙に冷静な頭は、がくがくと揺さぶられながらも過去を反芻する。今自分を犯しているのは昔の自分だ、と夢想する。
 自分とこの弟子は、それほど似通っていた。



「余裕ですね、芭蕉さん」


 ぐい、と髪を掴まれ引き起こされる。無理やり反らされた頚椎が悲鳴を上げる。


「何考えてるんですか」
「きみのことさ」


 切れ切れに言うと、蔑むように覗き込んでいた瞳に明らかな動揺が走った。
 乱暴に頭を枕に押しつけ、律動を再開する。髪に絡めたままの指が震えている。



 大丈夫だよそらくん、きみは大丈夫。
 きみの中で騒ぐなにかは、きみを食い殺したりはしない。




 そんな言葉も届かないとわかっているから、今はただ身をまかせた。
 今は、ただ、まだ。





(曽芭)