(目の前を行く彼の背が、遠い) 「ねえ、最後くらい並んでゆっくり歩かない?」 「嫌ですね」 「即答!? だってもうすぐ終わっちゃうのに」 「すみません、やっと芭蕉さんと決別できると思ったら嬉しくてつい」 (いつもの辛辣な台詞を) (吐くのは、後ろ姿) (ねえ) (本当は?) 「いろいろあったね」 「長い旅でしたからね」 「君はいつもひどいことばっかりしたけど」 「仕方ないでしょう、あなたがろくな句を詠まないのが悪いんですから」 「ほんっとひどい弟子だな君は……でも、楽しかった」 (地に果てはないと知った) (海の向こうには町があり) (道はどこまでだって続く) (でも) 「……そうですか」 (この旅は、終わる) 「……じゃあ」 「はい」 「またさ、うちに遊びに」 「行きません」 「また即答!?」 「じゃあ、ね」 「ええ、さようなら」 (せめて、その声が震えるなら) (不安をにじませる背を抱きしめ撫でて) (涙を零すまなじりにそっとくちづけて) (大丈夫、これからだって一緒だよ、と) (笑って) (それでも盗み見た彼の表情は、いつもよりいささか不機嫌そうに眉をひそめたそれでしかないのだ) 天泣(芭曽) |