「え」



 短い絶句のあと、「嘘、ですよね?」と問いかける。
 こういうとき、人は半笑いになるものなのか。ひくつく自分の頬がやけに滑稽だ。



「嘘じゃないよ。確実ではないけど、確信はある」



 私は消えるよ、近いうちに。



 そう言って竹中さんは、またふわりと笑んだ。


「そ、んな……どうして」
「太子が私を必要としなくなったから。私がいなくても生きていけると思いはじめたから、かな」
「まさか、僕の」
「イナフのおかげだよ。酷な言い方に聞こえるかもしれないけど、でもそれはいいことなんだよ。私も嬉しい」


 だってそんなのってない。叫びたかった。
 それでもこのひとが薄っぺらな自己犠牲の精神から自らの死(死、ですらない。消滅だ、文字通り)を受け入れようとしているのではないことくらい僕も重々承知していたし、心のどこかでそうであれと願っていた。




 このひとは真実、彼のためだけに在る。



 ひとたび彼と自身が乖離しつつあることを悟ったなら、彼以外のものがいかに惜しもうと、たとえ僕が泣いて縋ろうと、このひとは笑って消えなければならない。潔く、悲しく、それゆえに美しい。



「つらい思いを、させるかな。君には」



 それが少し心残りだ、と呟いて、竹中さんはうなだれた僕の頭をそっと撫でた。
 つめたい手を、やさしいその感触を、このひとを刻もうと、ただ必死に嗚咽を殺す。




 何を、恨めばいい?





トロイメライ(魚妹)