「いて」



 伸びた爪ががり、と首筋の薄い皮膚を掻いた。熱さにも似た痛み。


「ちょ、これ血ィ出てんじゃないの見てよちょっと」
「あ、あー出てますね」
「あー出てますねじゃないだろこんにゃろう! 爪くらい切っとけこの野生児が!」


 はいはい今後気をつけます、と気のない返事をする妹子。本当にこいつは私の部下なのか。そして恋人なのか。腹立たしいことこの上ない。


「妹子バンドエイド持ってる?」
「持ってません。てゆうか誰も持ってませんよこの時代」
「じゃあせめてマキロン」
「それもありません。舐めときゃ治りますよそんなもん」


 どうやって舐めろと、と反論しようとしたそのとき。
 れろ、と舌を出した妹子が傷口を舐め上げた。いきなりの刺激に背筋がわななく。


「ひゃ……! いい妹子おまえ」
「なに気色悪い声出してるんですか太子」


 大袈裟に眉をひそめてからこらえきれないといった風に吹き出し、笑いながら口づけてくる。珍しく積極的な態度に驚きつつ舌を差し入れると、調子に乗るなとばかりに犬歯で噛まれた。


「いっへ! もー、引っ掻くわ噛みつくわ、ほんと野生児っていうかもはや野生動物だなおまえは。レッドデータアニマルだな」
「どうも」
「褒めてないっつの」
「知ってますけど」
「くあー腹立つ!」


 天井に向かって叫ぶ。妹子はまたくすくす笑った。笑いながらいたずらっぽく言う。



「動物だから、舐めて治すんですよ」



 舌出してください、と言われてそれに応える。妹子もまたれろ、と舌を出し、目を開けたまま顔を近づけて触れさせた。咥内に引き入れることはせず、そのまま絡め合う。



 視線も合わないくらいの至近距離で思ったのは、やっぱり人間も動物なんだなあってことでした。





さわるな危険(太妹)