おまえを守るよ、ととびっきり真面目にとびっきりの台詞を吐いたのに。 とびっきり不愉快な顔を、された。 「何だ、何なんだその顔は。ここは喜ぶところだぞ」 「あのなあ榎さん。そんなことを云われて喜ぶ男が何処に居るんだ」 中禅寺は頭を斜めに傾け、大袈裟にため息をつく。その反応は大層心外だ。 「大体、何から守るって云うんです。暴漢? 災害? 四六時中一緒に居るでもないのに、無理でしょうそんなのは」 「一緒に居ればいいじゃないか」 「常識的に考えてください、できるわけないでしょうに。それに」 勿体ぶったように一呼吸置くので顔をじっと見ると、ぎろりと睨み返された上にとどめの一言。 「四六時中あんたに傍に居られちゃ、鬱陶しくてたまらない」 「中禅寺、おまえはどうしてそう……可愛げのない……」 「僕に可愛げを求めるあんたが間違ってる」 そう吐き捨てて、また黴臭い本に目を落としてしまう。本馬鹿め、と呟くと、そう云うあんたはただの馬鹿だがね、と返された。こっちを見もしない。 不貞腐れて畳の上にばたん、と寝転がる。文字通り寝て、転がる。ひとりでごろんごろん上を向き下を向きしていると、かき回された頭に名案が浮かんだ。がばっと起き上がる。 「中禅寺、中禅寺!」 「なんだよもう、騒々しいなあ」 迷惑そうに目線だけをちらりと上げる愛しい人の方へ、机に手をついて身を乗り出した。顔が近づくが、中禅寺は特に退くでもない。 「おまえさっき、大体何から守るんだ、と云ったな」 「云いましたが」 「四六時中居られちゃ鬱陶しい、とも云った」 「云いましたね」 「それは、僕がわあわあ騒いでいろんなことを仕出かすから鬱陶しいんだな?」 「わかってるなら自粛してくれ」 「ふふん、それならいいんだ。それなら僕はな、中禅寺」 勿体ぶって一呼吸置き、中禅寺が注目してきたところで、矢庭に立ち上がって両手を広げた。 「僕はすべての退屈からおまえを守るぞッ!」 これでどうだ、と得意げに見下ろすと、先刻まで仏頂面だった中禅寺が笑い出した。失笑に近かったがまあ気にはしない。笑ってくれればそれでいいのだ。 おまえの笑顔は、僕が守るさ。 save!(榎京) |