いつの日に骨拾いをしよう



 愛おしげに頬を撫でる指が枯れ木のようで、ぞくりとした。


「いつまでだろうねえ」
「なにがですか」
「こうしてきみを抱けるのも、さ」


 下世話な、と吐き捨てれば、師はからからと悪意なく笑った。視線を窓のほうにやれば、障子の破れ目から盗み見るように月明かりが差している。いくら小汚い木賃宿とて、否、だからこそ修繕くらいしたらいいものを、と、眉をひそめる。


「心はまだまだヤングだけどさー、やっぱり寄る年波には勝てないやねえ。そらくん若いんだもの、松尾もうへばっちゃうよ」


 やんなっちゃうねえ、と布団の中で伸びをすると、その骨ばった肩がぱきりと鳴った。乾いた枝を折るような音。
(焼いた骨は折れるのか、崩れて灰になるのか)


「お迎えはまだですかね」
「どうだろうねえ。まだだといいねえ」
「むしろこっちから迎えに行くくらいの心遣いが必要なんじゃ」
「なんで待ちきれないふうなの!?」



 死んでゆく順番は天が決めることであろう。自分はきっと後で、彼が先だ。
 一緒に死ねたらいい、などと思ったことはなかった。ただ自分は、このひとの最期を、このひとが在ったすべてを焼きつけておけたらいい。このひとがこの世界で最後に見るものが、僕であったらいい。
(肉を焼く炎は、果たして記憶までも燃やし尽くすだろうか)



「眠ろうか」
「ええ」



 顔の横あたりにするりと落ちた手に、自分の指を絡ませた。軽く力を込めれば同じだけの強さで握り返してきて、そんな戯れで存在を確認するような。
 横目で見た障子の向こうで月に雲がかかる。ふと闇が落ちたその刹那に、傍らの息遣いも温もりも消え失せたような錯覚を覚えて、たまらなくなってつないだ手に頭をすり寄せた。





骨拾い(芭曽)