贅沢なこと望んでるわけじゃあ、ないと思うのにな。



 指先がうっすらと透けていた。向こう側には新緑が淡く霞んでいる。息を呑み、目を離せずに。
 なんでもないことのように何度か手を握ったり開いたりするうちに、彼本来の肌の色が戻ってくる。


「びっくりした?」


 竹中さんは苦笑い、としか云いようのない表情を浮かべ、右手首を左手で掴んで軽く揺すった。だらんと垂れたその手はもう普段通りで、きっと普段通りにつめたいはずだ。
 嘘をついても素直に頷いても彼は悲しむのだろうと思ったから、僕も少し笑ってみせた。それでも水鏡のような瞳には寂しそうな色が浮かび、罪悪感が喉元までせり上がる。
 たまらずに口を開くと、あ、と意味をなさない声が漏れた。


「でも、わかっただろう」


 手首を押さえたまま、竹中さんが半分俯いて言った。


「わかった、って」
「私はヒトじゃない。イナフとは違うよ」
「それは」
「いいんだ」


 いいんだ、と竹中さんはくりかえした。僕にはそれが彼の決意と諦念に聞こえて、でもその奥は全然見えなくて、ひとつ確実に言えるのはそのとき握りしめた僕の手は震えていたということだ。




 ただ、共に在れたら。
 望むのはそれだけで、それ以上なんていらないのに。



 それすらも、罪だった。





ウエイト・オブ・ユア・クライム(妹魚妹)