垂れ落ちる前髪を鬱陶しそうに指で払う、仕草が。



「若く見えますね」
「は?」
「髪下ろしてると」
「そう? あ、違うよ。俺まだ若いって! なに言ってくれちゃうかな鬼男くん!」


(じゃまだなあ)


 覆いかぶさる彼の表情は逆光に縁取られ、読むことができない。耳にかけた長い前髪がするりと落ちてきて、毛先が頬をくすぐった。


「なに、大人しいじゃん」


 珍しく乗り気? と問う声には笑いが含まれていて、悔しい、と感じる。
 なんでバレるかな。俺は、あんたが考えてること、全然わかんないのに。


「おいおい、そこで黙るかあ?」
「……」
「ま、いいけどね。十分伝わったし」


(こんなときによく喋る、下世話な男だ)
(楽しそうなのに、くすくす笑ってるのに、表情が)
(みえない)


 自重を支える腕の力を抜き、身体全体でのしかかって首筋に愛咬をかましまくる大王の頭を両手で掴んで、ぐいと引き離した。指先で髪をすくって分け、いつもみたいに、よく見えるように。


「……なにすんの鬼男くん」
「あんた犬か」


 まるでおあずけ食らった犬だ。
 控えめに吹いて笑って、至近距離真正面ですねて尖ってる唇に自分の唇を合わせた。すかさず後頭部を抱え込まれ、キスが深くなる。侵されてるのか溶けあってるのかわからない、互いに目を閉じてしまえば、そんなことは。



(おれに触れたいと急くあんたにおれは触れたい)




 牙を持ってるのは、俺だって同じなんだ。





餓(かつ)える(閻鬼)