「ねえ、外には何があるの」
「何もないよ」




 風は泣かない。ただ吹くだけだ。
 ばさばさと髪が乱れる。鬱陶しい。切りたい。




「私、嘘しか言わないから」
「じゃあそれも嘘なの」
「かもね」
「それは?」
「知らない。あんたが決めればいいよ」
「俺が決めたら嘘じゃなくなるの」
「かもね」
「それは」
「嘘だよ。そう言えばいいの?」
「俺は君にして欲しいことはないよ」
「そう」




 髪はばさばさと顔にぶつかる。目に入る。痛い、のかもしれない。どうでもいい。ただ鬱陶しい。




「ねえ、鋏ある?」
「ない」
「カッターでもいいよ。包丁とか」
「君の場所に帰れば全部あるんだろう」
「ないよ。あんたが与えてくれないと、私何にも持ってない」
「それが嘘なんだね」
「うん、嘘」
「君の言うことが全部嘘なら、嘘じゃないことって何?」
「嘘じゃないことは本当のことでしょ」
「それは本当?」
「嘘だよ」
「じゃあ本当って何」




 乱れる髪を指に絡めて引っ張った。痛い、ような気がした。どうでもよかった。




「本当は、私とあんた」
「は?」
「私とあんたが本当で、あとは全部嘘」
「何それ。勝手に人のこと決めないでくれる」
「別に、あんたにとっては嘘でもいいよ」
「じゃあ嘘」
「いいよ。私には本当だから」
「そう」




 本当は嘘でも本当でも構わなかった。ただここに居られればよかった。
 この気持ちが嘘だったら、それはきっと痛い。




「ねえ、髪切ってくれない」
「俺に言ってるの?」
「あんたしかいないよ」
「切らない方がいいよ」
「なんで」
「似合うから」





 ここには全部があった。





noiseless/no-future/neverland(蘭とホームレス)