石造りの堅牢な階段を、一段一段踏みしめながら上ってゆく。その一歩ごとに俯いた彼の髪が揺れるのを、私は聖徳太子御廟の前に座って見下ろしていた。 石段を上りきった彼は私に気付くと、あ、と声を上げた。 「竹中さん。久しぶりですね」 「ああ、久しぶり」 彼は水の入った器と、一抱えもある花束を携えていた。ここまで運んでくるのはさぞかし骨が折れただろうと推察するも、彼は何でもないように荷物を下ろす。そう云えば意外と体力があるのだったな、と思い出して感心する。 彼は手際よくそれを墓前にしつらえ、うん、と頷いた。 「仏花って感じじゃあ、ないんですけどね。せっかく許可もらえたんで、ちょっと張り切りすぎちゃいました」 手のひらに貼りついた葉のかけらを払い落とし、小さく笑う。 「おばさん、なんて言ってた」 「不遜だなあ。僕なんかが天皇陛下と直々にお話しできませんよ。ただ、是非にとはおっしゃってくださったみたいです」 我慢してあのアホの面倒見てた甲斐がありましたね、とおどけてみせる。目の前の彼とも、出会ってどれくらいが経っただろうか。それこそ彼らが隋に行く前から太子から随分話を聞かされはしたけれど、共に過ごすようになるまでには少々時間がかかったようにも思える。確かなのは、それは私にとってほんの一度瞬くほどの時であり、その瞬きの間に私は永遠のような白昼夢を見ていたと云うことだ。 「綺麗な花だな」 私が言うと、彼は「うちの庭で咲かせたんですよ」といとおしげに艶やかな黄色の花弁に触れた。 「何がいいかなって考えたんですけど、今の時期じゃまだあんまり選択肢がなくて。もう少ししたら、もっといろいろ持ってきてあげますから」 後半は太子に向け、呟くように語りかける。私は彼から視線を外し、辺りを見回した。日陰にはまだ、根雪が残っていた。 「竹中さん、今までどうしてたんですか」 「さあ、どうだっただろう――よくわからない。太子にも、おまえにも会えなかったから」 ※web掲載用に修正済 |