川べりの道を、二人並んで歩いている。 「あ、鶴」 「朱鷺ですよ。鶴はもっとこう、あれです」 するっとした感じ、と想像上の鶴の首を下から上に撫で上げてみせる。筒状にした手を腰の高さから勢いで顔の前まで持ち上げて止めた。近くで見たことがないから実際の長さがわからないのだが、いくらなんでもこんなには長くない気がする。 太子はああね、と頷いて同じ仕草をした。 「あと、この辺に来る鶴はもっと赤いです。頭のとこ」 「赤いの? 妹子とどっちが赤いかな」 「僕は赤くない、赤いのはジャージだ、着てないし」 天気は良くも悪くもない。南中を過ぎた太陽を背にしているけれど直射日光は感じないし、かと言って雲がかかっている感じもない。なんとなく明るくて、なんとなく辛気臭い。色で言ったら、限りなく真っ白に近い薄い薄い灰色。そう言えば冬が近いけれど、そのせいだろうか。視線の先にそびえる色づいた山々を眺めながら去年の冬の空気を思い出そうとしたけれど、うまくいかなかった。季節の移り変わりなんて物心ついてから何十回と経験しているはずなのに、迎えるたびにどこか戸惑ってしまうのは何故だろう。学習していないのかなあと思って、なんだか少し落ち込んだ。不如意だ。 太子はいつの間にか河原の葦を何本か折ってきたようで、手に持って遊んでいる。鞭のようにひゅんひゅん振り回すものだから、危うげに空を切って鼻先をかすめていく。 「やめてくださいよ。怖いですよ」 「え、当たった? ごめんごめん」 太子はぞんざいに謝ると、妙な鼻歌を歌いながら、振り回すのをやめた葦を適当に編み始めた。 「なんか作るんですか」 「んー、妹子の新しい制服」 「嫌がらせだ!」 河原には葦のほかにもススキや名前のわからない背の高い草が生えて、さわさわと風に揺れている。麦や稲ならば黄金色の海が豊穣を感じさせるのだろうけれど、白茶けたような色の波にはおよそ生命力というものが垣間見えない。実りのないそれらは、ただ物悲しいばかりだった。 ※web掲載用に修正済 |