それはあまりにも自己陶酔的な慕情。 tragedy junkies もう嫌だ、と声に出さずに吐き出すと、目の前の男が切なげに笑った。 「すみません」 「……なんで謝るんだよ」 自分で言っておきながら、予想された返答にどうしようもなく苛立つ。非常階段に座り込んだままうなだれると、視界がひどく狭くなった。この閉塞感は俺たちの関係に似ている、などと下手なキャッチコピーのような一文が頭をよぎる。 古泉は向きを変え、壁にもたれたようだった。あーあ、埃だらけなのに。背中汚れるぞ。 「しかしですね、あなたをこちら側に引き込んだのは僕らです。そのせいであなたは普通人であるにも関わらず、有り得ない危機に瀕したり要らぬ気苦労を強いられたりしている。それだけでも大変なのに、あまつさえ僕は」 あなたを求めた、と独白するように古泉が言った。 「別にお前を責めちゃいない」 「むしろ責めてもらった方が楽ですよ。あなたでなくてもいい、これは罪なんだと、誰かが告発してくれたならば。そうして裁かれれば、償うことも叶うでしょうに」 「甘いこと言ってんな」 口の中で転がしただけの声も、こいつの耳には届くらしい。また謝罪の言葉を口にするから、俺もまた同じ言葉でなじった。 お前のしてることが罪悪なら、俺だって同罪だろう。お前の差し出した手を取ったのは俺だ。選んだのは俺で、いろんな背徳を覚悟したのは俺で、覚悟しきれてなんかいなかったのも俺だ。俺たちはお互いが加害者で被害者で、共犯なんだ。そんなのわかってるくせにお前は一人で背負って楽になろうとするし、俺は愚にもつかない泣き言を述べる。どうしようもない大馬鹿者だな、俺たちは。いっそお似合いなんじゃないか。 だんだん息苦しくなってきて、俺は少しだけ顔を上げた。錆びついた手すりに腕をかけた古泉は、階下の駐輪場の方を眺めていた。見るものなんかないくせに。 「皮肉なものですね」 古泉がぽつりと呟く。空いた片腕で自らを抱く仕草が、ひどく芝居がかって見える。 「僕は超能力者で、あなたは鍵で。神を中心に稀有な存在が集う中で、あなたへの想いばかりがあまりに普遍的だ。それは僕のような存在や、この非日常たる日常には決して相容れない。アンバランスすぎて、きっと正気を保っていられなくなる」 ああ、それは何の戯曲の一節だろう。どうせ悲惨すぎて笑っちまうような悲劇なんだろう。否、喜劇なのか。どっちだって構やしないが。 少しの間を置いて、「ひとつ、ものすごくくだらないことを訊いてもいいですか」と古泉が言って、俺は無言で先を促した。 「あなたは、僕を好きでいてくれていますか」 「嫌えてたらこんな風に悩まん」 「そうですか」 それはとても悲しいことですね、と返す、何故かそれだけが棒読みだった。 恐らくは無人の駐輪場を見下ろす古泉と、仏頂面で座したままの俺と。次のト書きには何とあっただろうか、と、ぼんやり思索するようなつまらない放課後を、いっそ嘲笑すればいい。 |