そのとき俺は確かに世界の果てを見た。それはいつか戦争映画で見た燃える空の色でもなく、不本意ながら何度か足を踏み入れた閉鎖空間の厭らしい灰色でもなく、もっとあっけないような、ぽかんとした白だった。からっぽの色だった。阿呆みたいに開いてしまいそうになる口を引き結びながら、ただぼんやりと空を仰いでいる。俺だけだ。古泉は俺の肩にもたれかかって浅く呼吸している。寝てんのかと訊くと否定の台詞が力なく返った。お前俺よりぼろぼろだもんな、痛みで眠れやしないか。お疲れさん、と呟いて血と埃と泥のこびりついた髪をそっと撫でてやる。記憶の中のそれはさらさらと指の間から逃げてゆくのに、現実の触覚が伝えるのは固まってからまる不快さだ。似ても似つかない、と少しかなしくなる。俺はまた口をへの字にして黙りこくって、こんなになるまで世界を(その実は俺を)必死で守っていた無力なヒーローを労いつづけた。そいつは俺よりでかい身体で無遠慮に俺に全体重を預けていた。ひどく重く感じたけれど、世界の運命なんてクソ重いだろうものを背負わせるのはさすがに最初から酷だったんだろうなと思った。うつむいている顔を覗き込むと古泉がゆらりと首をもたげたので、俺たちはたいして意味のないキスをした。瓦礫の陰なんかに隠れなくたってここには俺たちだけだった。そんなの別に望んだことはなかったけれど、目の前の男がどうなのかは俺は知らない。こうして最後の二人になったって、俺たちは何も通じ合えてなんかなかった。別の個体としてうまれたことがあるいは間違いで、それこそが僥倖だったのだと理解している。ん、と鼻にかかった声を漏らしたりなんかしてるうちに終焉はほんの靴先にまで迫って、だからどうと云うこともなかった。だってここにはお前がいるよな、古泉。俺だってここにいる。ああでも、できるなら、気の済むまでここにいられたらよかったのにな。おしまいがこんな景色だなんて、臭いだなんて、今だなんて、あんまりだろう。闇のほうから先に奪われた時間のない未明、俺は閉じたまぶたの裏側で爆死するひかりの破片を追っている。(夢ならば覚めてしまえばいい、そして俺たちはもう一度眠って夢を見る)(こんなばかげたのじゃなく、もっと甘やかで幸福な、飴色の夢を)


さいはてろんど